『祈昌の世迷言』・・・アジアの片隅より

離島と本土を繋ぐ日本最小の『暁橋』のたもとから、娘と善き隣人に届けます。

子供等に伝えるべき『父の恋バナ』・・・④




 翌週の22日(月曜日)の夕方に、友人との待ち合わせの為に「さんのず」へ行った。



 午後6時ぐらいじゃったじゃろぉか・・・。



 普通、「スナック」は、午後7時~8時に開店する店が多いぃんじゃが、「さんのず」には、一人息子の『たみくん』異、奥田民生氏の、未成年のファンも結構来よった関係で、早い時間から店を開けよったみたいじゃし、珈琲やジュース類も、喫茶店並みに揃えてあって、結構、美味しかった。



 友人が来るんを待ち乍ら、カウンターで珈琲を飲み飲み、マスターやさんのずのママさんと、世間話をしよったら、『カラン♪カラン♪』と入口の鐘が鳴って、御客さんが入って来たんじゃった。


 「あっ♪、Kちゃ~ん♪、いらっしゃ~い♪」と、さんのずのママさんが小さく手を振りながら出迎えたんじゃった。


 何の気なしに振り向いた。


 「あらぁ~ぁ⁈・・・どぉしたん?・・・何で居るん?」と、驚いた声をあげたんじゃった。


 その声を聞いて、初めて「スナックK」のママじゃと言う事に気が付いたんじゃった。


 驚いたの魂消たの、ビックリしたんじゃった。


 じゃが、「スナックK」のママの方が、儂よりも余計に驚いたみたいで、大きな目を真ん丸に見開いて、『美人って、魂消た時の顔も美人なんじゃのぉ⁈』と、儂を感心させる程、ビックリしたみたいじゃった。(流石の儂も、1ⅿ以内の距離じゃと、表情も分かった)


 「えっ⁈、Kちゃん、土師さんの事、知っとるんねぇ⁈・・・」と、さんのずのママさんも驚いた様に言うと、


 「知るっとるも何もねぇ・・・金曜日の夜に、役所の制服を着た人が、後輩じゃ言う人と二人で突然店に来て、酒も飲まんのにボトルをキープして、ウーロン茶を2杯飲んで、帰って行ったんよ。」と、少し怒り気味に言ぅたんじゃった。


 それを聞いた、さんのずのママさんが、


 「えぇぇっ‼、土師さんは意地が悪いねぇ‼・・・うちが行ってみんさい言ぅた時にゃぁ、『全然、興味が有りません』みたいに言ぃよったのに、内緒で行っとったんじゃね。」と、笑いもって言いながら、「スナックK」のママに、


 「あのねぇ、・・・斯く斯く云々・・・」と、これまでの経緯を話して聞かせたんじゃった。 


 それを聞いた「スナックK」のママは、一頻り大笑いをすると


 「奥田のママ♪・・・まぁ聞いてよ♪・・・。金曜日の夜に、見た事も無い、役所の制服を着た男が二人来て、誰かからの紹介なんですかって聞いたら、違う言うし、酒も飲まんのにボトルをキープして、金を払って帰って行ったら、怪しい人間じゃと、誰でも思うでしょぅ・・・うちは、てっきり、税務署の役人じゃと思ぉて、凄い警戒しとったんよね。」と、言い終わると、また、笑い出したんじゃった。


 「そぉじゃったんじゃぁ♪・・・そりゃぁ、誰でも怪しい人じゃと思うよねぇ。・・・それに、色々と在ったしねぇ・・・」と、さんのずのママさんも笑いもって言ぅたんじゃった。



 後で聞いた話じゃと、「スナックK」のママは、「スナックK」を開店する以前は、3軒のスナックを経営していたそうなんじゃが、税務署に脱税の容疑で捉まり、こっ酷く遣られたみたいで、その挙句、信頼して店を任せていた従業員に、店の売り上げなど、多額の金を持ち逃げされたみたいで、一時は、店を畳んで田舎へ帰ろうとも考えたらしぃんじゃが、一年程前に「スナックK」を開店して、心機一転して再スタートしたらしいんじゃった。 



「奥田のママの紹介なら、最初から、そうじゃと言ぅてくれりゃぁ良かったのに・・・てっきり税務署の調査員かと思って警戒して、うちは気が気じゃぁなかったんよ。」と、笑いながら言ぃよったんじゃが・・・。


 『嗚呼、そぉ言ぅ事じゃったんかぁ・・・何やらいなげな(広島弁・妙な)感じじゃった訳じゃ・・・』と、思いながらも、『今時、脱税の調査に行くのに、役所から支給された制服を態々着て行く職員はおらんじゃろぉ』と、思ぉたんじゃが、「スナックK」のママにしてみりゃぁ、多分に怪しゅぅに見えたのは、致し方の無い処じゃったじゃろぉと思うんじゃった。


 「そぉ言ぅ事じゃったんなら、亡くなった奥さんの事は、レイちゃんには黙っててあげるけんね。」と、「スナックK」のママは、ニコニコ顏で言ぅたんじゃった。



 そぉこぉしよる内に、儂の友人がやって来たし、「スナックK」のママも、店に入る時間に成ったけぇ、ママは「さんのず」を出て行ったんじゃった。


 「うちの店にも、時々、顔を出してね。レイちゃんも待ってるから・・・」と、去り際に言ぅたんじゃった。



 事情の分からん友人は、「今の綺麗な人は誰⁈・・・何んの事?」と、儂を問い質し、口の堅い儂も、さんのずのママさんがバラス前に、自分で白状しておくべきじゃろぉと考えて、経緯を話したんじゃった。 


 「何で俺を連れてってくれんかったんなぁ・・・」と、言ぅたんじゃが、情の在る男じゃが、悪気も無い分、口が軽い奴なんで、『こんなを連れて行かんで、S君と行ったんは正解じゃった』と、思ぉたんじゃった。(友人は気持ちの良い男じゃが、人の口に戸は立てられんけぇ、巡り巡って身内の耳に入るんは避けたかった)



 それからは、「スナックK」に、週末に成ると顔を出す様になったんじゃが、大抵はS君と一緒に行き、S君は、儂が居らん時でも、自分の友人や彼女と行ったりしよって、ボトルが空に成ると、儂が補充しよったんじゃった。



 行きよる間に、常連の御客さん達とも顔馴染みと成り、儂独りでも行ったりして、憩の一時を過ごしよったんじゃが、最後まで友人と行く事は、一度も無かったんじゃった。・・・アジアの片隅より